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「IoT」「ビッグデータ」「AI」が美容・健康サービスを変える  ソニーCSL桜田一洋シニアリサーチャー

美と健康は長寿人生を豊かにするプラットホーム

「なぜ肥満はいけないのか」「標準でなければならないのか」。桜田氏は、ヘルスケアサービスの多くは、一人ひとりの違いを見ずに、「標準解の健康」で判断してきたと指摘する。解決への糸口としてのヘルステックや、サービスの個別化について聞いた。

月刊Diet&Beauty

ソニーコンピューターサイエンス研究所(CSL)シニアリサーチャー、理化学研究所医科学イノベーションハブ推進プログラム副プログラムディレクター 桜田一洋氏
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ー情報化社会の課題を解決するヘルステックとは

人間社会は、「狩猟社会」から「農耕社会」。そして「工業化社会」、「情報化社会」と進化してきました。次に目指すサイバー空間と現実社会が融合する未来の「超スマート社会」の実現に向けての取り組みを政府は、「Society5.0」と名付け強力に推進しています。IT は生活を快適に安全にする技術のはずでした。ところが、情報化社会ではスマホ中毒という言葉が示すように、ネットワークに拘束されむしろ生活の質を下げているようにも見えます。もっと人の快適な生活に寄り添ったサービスは出来ないものでしょうか。つまり従来のヘルスケアが解決できなかった問題へ挑戦する新しい産業領域がヘルステックなのです。 情報化時代の典型は、スマホがあって、ソーシャルネットワークがあって、プレステーションというエンターテインメントがある生活。確かにエンターテインメントは仮想空間を楽しくしてくれました。これまで美や健康領域は、エレクトロニクスのど真ん中には存在し得なかったのです。

いま、EBM(エビデンス ベースド メディスン)の下で、標準治療が一部の患者にしか効果が出ないという事実があります。同様に健康や美においても、ある人に効果的でも別の人には違うということがあります。確かに平均を取れば傾向は見られますが、それはあくまで標準解としての〝健康″や〝美″にすぎません。皆自分のことを知りたいのです。標準ではなくても一人ひとりに最適な体型があるように、ライフスタイルや生き方があるはずです。これらの課題を、今、IoT や、ビッグデータ、AI 技術で克服していくことが期待されているのです。

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ーヘルスケアやビューティが抱える課題とは

美や健康をテーマにするエレクトロニクスが、コンシューマビジネスとしてリアルライフを楽しくするステージに入ろうとしています。ここで難しいのは、ゲームと違って、対象それぞれの人格が重要だということです。多様に人格があって、それぞれに合った個別のサービスが求められるからです。つまり、人の多様性を尊重した健康や美への問題解決の支援、もっと言えば一人一人が自分自身を可視化することで問題解決の方法を発見する支援です。いよいよ人生100 年時代が到来します。そのとき長生きだけが人生を豊かにする指標ではないはずです。様々な価値があるはずです。あまりにも、効果や効能、目的の世界に埋没してしまうと生きること自体が苦しくなるように思います。

 

ー今後求められることは?

「自分の見える化」が、健康と美の実現のための一番の前提条件です。今後ウエアラブルセンサーや、データゲノムもその手立てとなってくれるかもしれません。他との違いを知り、傾向を知り、自身の生き方を選ぶこと。似ている誰かの例を参考にすることも良いでしょう。 押し付けではなく自由度があることは大切で、楽しみが増します。むしろ、顧客の自由度をせばめるようなサービスは、これからは淘汰されていくことになるのでしょう。「Society5.0」は、これまでの合理性や効率性とは異なる価値の創出をして顧客自身がその価値を自ら選択し出会える仕掛けを作っていこうとする社会です。つまり、これまでの商品設計が企業視点だとすると「Society5.0」とは顧客視点に転換することとも言えます。

いま、やっと、リアルライフを充実させ楽しくすることに技術が追いつこうとしているのです。そのためにも、早急にインフラを整備しなければなりません。まず、医療や健康等の個人データの管理。国内で日本人のデータを安全に扱えるようになれば、産業を育成でき、世界にさきがけて、100 年人生を豊かにする新しい事業領域が生まれていくでしょう。

 

桜田 一洋(さくらだ・かずひろ)

バイエル薬品の執行役員などを務めた後、2008年よりソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。2016年から理化学研究所医科学イノベーションハブプログラム副プログラムディレクター兼務。理学博士。

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