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美しいものを美しいと感じる 心と体を育むために(株式会社和える 代表取締役 矢島 里佳氏)

〈インタビュー〉株式会社和える  代表取締役 矢島 里佳氏

日本料理でよく耳にする「和える」という言葉。異なる素材同士が形を残しながらもまざり 合い、互いの魅力を引き出し、より魅力的なものが生まれる意。ミックスやブレンドとも違う。㈱和える代表の矢島さんは、「伝統・文化」に触れることで、日本人が元々持っている精神性や細やかな感性を呼び覚ませるはずと語る。

現在どういった活動を?

日本の伝統文化や職人さんの仕事に魅了されて、なにか係る仕事ができないかと19 歳の頃から全国を回り、フリーライターとして日本の伝統文化・産業の情報発信をする仕事を始めました。「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いが強くなり2011 年 3 月には、「株式会社和える」を創業しました。地域を巡ると、その土地の人にはごく当たり前の日常の中に眠っている宝物に気づくものです。そういった地域の「伝統」と、「何か」を「和える」ことを常に考えてきたのです。
まずスタート時から取り組んだのは “0歳からの伝統ブランド aeru” です。モノを通して伝統を伝えようと考えました。生まれたばかりの赤ちゃんの時から伝統、文化、そして日本の精神性に出逢う環境づくりが重要だと思ったのです。つまり、生まれて最初に出逢うお道具や身の回りのモノから、伝統の魅力を感じられる豊かな感性を育もうと。そして、伝統や文化にはその力があるのだから、幼少期から大人になっても使い続けられる一生モノを全国の職人さんたちと生み出していこうと。例えば、内側に「返し」が施されている『こぼしにくい器シリーズ』。
保育園、幼稚園などの給食の器としても導入いただいています。土や木といった素材や産地の気候など、背景にも関心を持つきっかけとなる器です。
次に、幼児向けからビジネス研修まで、幅広い方を対象とした教育プログラム “aeru school” を展開しています。地域の文化伝統を題材に「感じる力・観察する力・言語化する力」を伸ばすことで、哲学する力(自分で考える力)を育むことが目的です。参加者の中には留学前に自国について学びたいという高校生もいました。ビジネス研修は、自分を表現するワークショップ形式です。伝統の伊勢型紙を用いた葉書の型染めのワークショップでは、刷毛や顔彩を使いながら色を重ねていく過程で、「自分とは何か」と考えます。頭の中を見える化し、自身に問うことで普段は気づかなかった自分に気づくこともできます。
現在のビジネスパーソンに必要なことは、感性や感覚を磨き、言語化した内容に論理性を持たせることです。思考力が高く感性豊かな人材を輩出しなければなりません。無形の部分、つまり精神性や、繊細さといった目に見えない部分に目を向けられる日本人を育成することが、日本人ならではの感性を呼び覚ますと思うのです。
また、“aeru onaoshi”(和えるお直し)という事業もあります。金継ぎ、銀継ぎという伝統の技法で壊れた陶磁器やガラスを直すことや、漆を塗り直すことです。

全てのモノに魂が宿ると考えモノを大切にしてきた日本人の精神性も、このお直し事業では伝えています。ここでも職人さんの技術が生きています。海外の方が日本の伝統工芸に関心を示すのも、モノを通して日本人の精神性に触れようとしているからではないでしょうか。

今後の新しい展開は?

ホテルや旅館の一室を、その地域の文化や伝統を伝えるいわばメディアにすることを考えました。工芸など地域の伝統に携わる職人の技を取り入れた魅力の詰まった “aeru room”(和えるルーム)です。どの地域に行っても、とかく機能を重視して均一化されたホテル・旅館の部屋が多い中で、その地域の個性を伝える空間づくりができないかと取り組みました。旅の時間でもウェルビーイングを目指すことは、とても重要です。朝目覚めて自分が何処にいるのかと戸惑うことがありますが、ホテルで目覚め、天井を見上げると吉野杉の杉皮が貼られていたら、間違いなく奈良を実感するはず。それはとても心豊かな時間なのです。現在、姫路、長崎、奈良、京都に “aeru room” を展開しており、他の地域でも同様に地域の個性を伝える展開を進めています。

また、2025 年を目標に、京都の丹後エリアでリトリートできる施設 “aeru time” (和えるタイム)の開業を考えています。2 泊 3 日、長ければ 1 週間以上の滞在を対象にしたおもてなしのリトリート施設です。心地よい空間、設え、伝統工芸品などの本物に囲まれた空間で、体感したことを普段の暮らしの中に持ち帰っていただく。東洋で受け継がれてきた鍼灸などの健康・美容サービスもあります。体の内からの美です。ここでも施設づくりや運営に地域の様々な専門家や職人の仕事が生きてくるでしょう。
日本の文化を消費してしまうようなインバウンドビジネスではなく、日本の伝統の魅力を体現するロールモデルとして、こだわりの空間を作りたいと考えています。今後の生き方を見出せる空間や時間、また、生きる意欲が湧いてくる場の事例として。人の心を豊かにし、美しいものを美しいと感じる心と体を整えるためには、日本の伝統が最も有効な手法だと信じています。

やじま りか
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2011年に株式会社和えるを創業し、2012年に“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げる。翌14年、事業拠点東京「aeru meguro」、15年京都「aeru gojo」をオープン。日本の伝統を泊まって体感できる“aeru room”、日本の職人技で直す“aeru onaoshi”など、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐ様々な事業を展開。著書『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』(早川書房)など。

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