統合医療

【インタビュー】 阿部博幸氏(九段クリニック理事長)

 サプリメントは安全性やエビデンス研究が進み、疾病予防や具体的な治療を目的として、広く使われるようになってきた。医療現場でサプリメントはどう活用されていくべきか。分子整合医学の考えを取り入れ、長年パーソナライズド・メディシンを提唱してきた、九段クリニック阿部博幸理事長に医療業界におけるサプリメントの役割とその条件、クリニックでの療法事例と成功例、今後の展望などについて聞いた。


― 統合医療におけるサプリメントの役割についてどう考えているか。
 サプリメントという言葉自体が定着していなかった頃は、ビタミン剤などを健康維持・増進のために飲むというのがサプリメントの役割と思われてきた。しかし、近年その役割は疾病の予防や改善、治療の補完、QOL向上、アンチエイジングや長寿といった具体的な目的を持ち、広く摂取されるようになってきている。統合医療の正式に認められた定義はないが、私は個々人に最適な医療を提供する“パーソナライズド・メディシン”であると長年提唱してきている。“パーソナライズド・メディシン”のためのサプリメントの役割は、予防と治療の補助・補完という2つの大きな柱がある。予防においては患者の心と身体の両面から包括的にニーズを満足するために、食品からは摂取が難しくなっている必須ミネラルやビタミンを、サプリメントで摂取することは有用性が高いと言える。一方、治療の補助・補完においても、治療の副作用の軽減や、治療のよりよい効果を引き出す上でもサプリメントの役割は大きい。
 サプリメントの安全性や有効性、薬や治療との併用に関する研究も広く行われ、エビデンスの構築も進んできている。そして今後は医療現場において、薬理ゲノム学やバイオマーカーのデータをガイドラインとしてサプリメントを活用することが推奨される。
― サプリメントの導入例とその成果は。
 当院では分子整合医学が病気の予防や治療に繋がるという考えを取り入れ、細胞内の分子レベルを個人の最適レベルに高める取り組みを行っている。この考えを元に、「SALERNO FACTOR」という米国で開発したマルチビタミンを取り扱う。疾病の多くは、単体で何か一種類のビタミンやミネラルだけが欠乏しているということはないので、複合的にビタミンやミネラルを補うことが大切だ。「SALERNO FACTOR」のように必須ビタミンやミネラル、不飽和脂肪酸などをバランスよく配合したサプリメントを摂取することで、脳や全身の栄養バランスが整い、うつ病や慢性疲労、病気の回復期に奏効している。
 がん治療の補助療法においては、いくつかの機能性成分を利用することで安定した回復が見られる。樹状細胞がんワクチン療法と組み合わせて、ナノ分子化したフコイダン、アガリクス、秋ウコンのサプリメントを処方している。ナノフコイダンは、腸管に届き免疫機能を高め、がん細胞のアポトーシスを誘導するといわれる。また、がん患者には低体温が多く、免疫活性が下がるため、身体を温めるカプサイシンが入ったお茶を推奨することもある。その他、植物由来の抗がん剤であるウクラインの点滴やがんの悪液質の予防に十全大補湯という漢方を使用することもある。
― 医家向けで扱うサプリメントの条件とは。
 まずは、原料の生産から製造管理まで一貫したフォロー体制がある製品。同じ素材でも、産地や時期によって機能性成分の含有量が違うということがあるので注意を要する。そして安全性、有効性のついてのエビデンスデータがあることが重要。また、その効果がどのようなメカニズムで得られるのかが明確であること。さらに、薬剤や他のサプリメント、食品との相互作用について明示されていることが重要な点である。
― 医療機関でのサプリメントの効果的な活用方法は。
 分子整合医学の細胞中の分子レベルを最高レベルにすることが必要だという考えから、はじめは高含有の商品を多めに飲むことを推奨し、ある期間体調を見ながら少しずつ減らしていくなど調整していくといい。ただし、その前提には食事と運動を意識したライフスタイルの改善が必要である。また、例えば当院ではがん患者さんにターメリック、アガリクス、フコイダンの3つの異なる成分のサプリメントを朝・昼・晩の時間差で飲むことを提唱している。免疫の日内変動やがんの増殖しやすい時間帯など、生物学的に検証された時間に合わせて、サプリメントを飲むという論理的な考えが元になっている。
 統合医療は代替医療の寄せ集めと捉えられがちだが、我々は1999年に“パーソナライズド・メディシン”を主軸に、医療の本来の姿を提唱してきた。薬理ゲノム学も考慮に入れ患者自身の身体情報からその人のメディカルレポートを浮き彫りにすることが原点となる。
 EBSの可能性は大いにあるが、サプリメントは薬ではないということを念頭に置き、個々人にあったものをドクターが選択してゆく時代が到来したと言えるのではないか。

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