統合医療

要介護前段階の「フレイル」とは ― 老年医学会提唱

日本老年医学会はこのほど、高齢になり筋肉や活力が衰えた段階を新たに「フレイル」と命名。5月13日付で学会として取りまとめたステートメントを公表した。超高齢社会に突入したわが国の介護関連サービスに要する費用は8兆円超。増加が見込まれる後期高齢者の多くが、フレイルを経て要介護状態に陥ると考えられる。高齢者のQOL向上から経済的、社会的問題の解決にもつながるとされるフレイル予防と対策の枠組みについて追った。
 フレイルとは英語の「Frailty」を語源としており、高齢期に生理的予備能が低下する状態を指す。ストレスに対するぜい弱性が亢進することにより、生活機能障害、要介護状態を経過し死に至る。筋肉の低下で動作の俊敏性が失われるため転倒しやすいなどの身体的問題につながるだけでなく、認知障害やうつなどの精神的問題、経済的問題にも直結する。そのため、フレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切な方法により生活機能の維持・向上を図ることが重要になっている。
 フレイルの概念はいまだ、医療・介護の現場に浸透していないことから、同学会では「その重要性を医療専門職のみならず国民に広く周知することで、介護予防が進み、要介護高齢者の減少が期待できる」と啓発の意義を述べている。一方、フレイルの定義と診断基準については「世界の研究者が議論しているにもかかわらずコンセンサスを得られていない。高齢社会のフロントランナーであるわが国でも意義の周知とともに食事や運動による1 次、2 次予防の重要性を認識すべき」と指摘する。米国老年医学会が発表した評価法によると、「年間に4 ~ 5 kgの体重減少」「疲れやすくなった」「握力の低下」「歩行スピードの低下」「身体の活動性の低下」のうち3 つ以上該当することで認定される。


 日本老年医学会WGメンバーで京都大学大学院教授の荒井秀典教授はフレイルの予防や発症を遅らせる方法について私見と前置きした上で、十分なタンパク質やビタミン・ミネラルを含む食事の摂取に加え定期的な運動、身体の活動量や認知機能の定期的な確認などの必要性を強調している。
 加齢による筋肉の衰えに対する周辺環境はニーズの増大に比例する形で国際的に整備が進んでいる。今年に入って日中韓台などアジア7ヵ国の老年医学の研究者で構成されるAsian Working Group Sarcopenia(AWGS)は、アジア人に対応したサルコペニアの診断基準を策定。診断基準は、高齢者がサルコペニアかどうかを確認する際、握力と歩行速度を測定。握力は男性が26kg、女性が18kg未満で歩行速度が秒速0.8m以下を基準値とした。2010年に欧州の研究者たちが作成した診断基準は、欧米人のデータが土台になっており、体格や生活習慣、筋力や筋肉量がアジア人と異なることから独自の基準策定が待たれていた。
 一方、産業界では骨、関節、筋肉に関する商品開発や、新素材のエビデンス拡充が活発になっている。機能性研究の進展を通じて市場形成に向けた素地を整えつつあるが、日本人にも適合する筋肉減少の診断基準が策定され予防策が国民に広まるには、商品開発の側面からも一層の追い風になるものと考えられる。

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