執筆者
台湾 葡萄王生技㈱ 生物科技研究所 Grape King Bio Ltd. Biotech Research Institute 江 玲慧
はじめに
現代社会における不規則な食生活、精神的ストレス、ならびに人口の高齢化は、腸管バリア機能の低下、慢性大腸炎、便秘、胃粘膜障害などの消化管機能異常に加え、運動器系の退行性疾患である変形性関節症(osteoarthritis:OA)とも密接に関連している。これらの疾患や機能低下は、個人のQOL(quality oflife:生活の質)を低下させるだけでなく、医療・介護負担の増大にもつながることから、その予防および改善に向けた新たなアプローチが求められている。近年、微生物学および分子生物学研究の進展により、腸内細菌叢と各臓器との相互作用を示す「腸-臓器軸(Gut–Organ Axis)」の概念が広く認識されるようになり、特に「腸-関節軸(Gut–Joint Axis)」や「腸-筋軸(Gut–Muscle Axis)」を介した全身の恒常性維持機構が注目されている。
腸内細菌叢の乱れに伴う腸管バリア機能の低下は、リポ多糖(LPS)やペプチドグリカンなどの微生物由来成分の体内移行を促進し、低度の全身性炎症を誘発することで、関節を含む組織の炎症や組織変性に関与する可能性が示されている。したがって、腸内環境を標的としたプロバイオティクスによる調節は、消化管機能の維持にとどまらず、腸-臓器連関を介した全身の健康維持という観点からも研究が進められている。
プロバイオティクスとして利用される微生物の中でも、酪酸菌Clostridium butyricumは、ヒトや動物の腸管内に存在するグラム陽性、偏性嫌気性の芽胞形成桿菌であり、酪酸(butyrate)産生能をはじめとする生理学的特性から注目されている。C. butyricumの特徴の一つは、主要な代謝産物として酪酸を産生することである。酪酸は大腸上皮細胞にとって重要なエネルギー源であり、ミトコンドリアにおけるβ酸化を介してATP産生に利用されることで、上皮細胞の正常な機能維持に寄与する。
さらに、酪酸はタイトジャンクション関連タンパク質の発現や機能を調節することで腸管バリア機能の維持に関与するとともに、炎症応答の調節や腸管運動への関与など、消化管の恒常性維持において多面的な作用を示すことが報告されている。一方、Clostridium属およびその近縁菌群には、ボツリヌス毒素を産生するClostridiumbotulinumや、感染症の原因菌であるClostridioides difficileなどの病原性細菌も含まれる。そのため、新規菌株を食品素材として実用化する際には、菌株の由来および同定を明確にするとともに、毒性学的と病理組織学的評価を含む安全性の確認が重要となる。加えて、偏性嫌気性菌は培養時に厳密な嫌気条件を必要とするため、工業規模での安定生産や、加工、保存と流通過程における品質および生存性の維持も、実用化における重要な技術的課題となる。
酪酸菌GKB7 の開発と特性
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