執筆者
備前化成㈱ 研究開発部 江口 良二、藤井 祐介、丸 勇史
1.脳疲労と炎症
近年、「脳疲労」という言葉が広く認知されてきた。長時間のデスクワークやデジタル機器の使用、情報過多による精神的負荷などを背景に、集中力の低下、思考の停滞、意欲の減退といった状態を包括的に表現する概念として定着しつつある。医学的に厳密な疾患名ではないものの、日常生活の質(QOL)や仕事のパフォーマンスに影響を及ぼす課題として注目されている。
脳疲労は、睡眠不足、精神的ストレス、情報過多など、様々な要因によって脳内環境に影響を与えることが知られている。近年では、こうした変化の一つとして、脳内における「炎症」との関連が注目されている。なお、本稿で述べる炎症とは、感染や傷害時にみられる発熱、腫れ、痛みなどを伴う急性炎症だけではなく、ストレスや加齢などを背景として、体内で炎症関連物質の変動が持続する慢性的な炎症状態も含まれる。このような慢性炎症は、脳機能や疲労感に影響を及ぼす可能性が示されており、近年では健康維持の観点からも重要な研究対象となっている。
脳内には、神経細胞を支持するとともに免疫機能を担うグリア細胞群が存在する。その中でもミクログリアは、脳内環境の変化を感知し、感染や傷害などの刺激に応じて活性化する免疫担当細胞である。適切に活性化されたミクログリアは、炎症関連物質を分泌して同細胞を動員し、傷害された組織の細胞や菌・ウイルスなどの感染原因を排除(貪食)することから、脳機能の維持に非常に重要である一方、過剰または持続的な活性化が炎症関連物質を介して神経機能や疲労感に影響を及ぼす可能性が示されている。
炎症関連物質の1つであるインターロイキン- 1β(IL-1β)は、感染時にみられる倦怠感や意欲低下などの症状や行動変化との関連が報告されており、脳内炎症と疲労感を結びつける重要な因子として注目されている。一方、炎症は単一の因子によって生じるものではなく、複数の炎症関連物質が相互に作用する複雑なネットワークとして形成される。また、加齢に伴う慢性炎症は、認知機能を含む様々な生体機能の低下との関連が示唆されている。このような脳内炎症と疲労感との関連を背景に、当社ではニンニク由来成分であるS-アリル-L-システイン(S-allyl-L-cysteine、以下SAC)に着目した。
2.S-アリルシステイン(SAC)
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