執筆者
高田香料㈱ 技術部 調香研究課 古城 和寿
はじめに
甘酸っぱく爽やかな香りが、目覚めのスイッチを入れてくれるオレンジジュース。なめらかな口どけと豊かな甘さ、濃厚で奥深い風味が、疲れた心身をそっとほぐしてくれるチョコレート。湯気とともに立ち上る芳醇な香りと深いコクが、時には集中力を高め、またある時にはリラックスさせてくれるコーヒー。それぞれの味わいは単なる「食」にとどまらず、私たちの生活に彩りや豊かさ、さらには心の安らぎまでもたらしてくれる存在である。
こうした豊かさを私たちが日常的に享受するためには、原料の安定した供給が不可欠である。しかし近年、それぞれの原料が抱える供給課題は深刻さを増している。オレンジは、干ばつや酷暑、カンキツグリーニング病の影響で収穫量が減少し、加工用果実の確保が困難になっている。その結果、果汁価格が上昇し、2024年にはオレンジジュースの販売休止が相次ぐ状況となった。カカオやコーヒーも同様で、気温上昇や降雨パターンの変化、病害などにより生育環境が悪化。加えて、栽培地の縮小や労働環境の問題もあり、今後ますます供給不安が高まることが懸念されている。
原料供給の不安定さは調達コストの上昇につながり、加工食品メーカーは価格改定や内容量の見直しといった対応を余儀なくされている。さらに、商品の安定供給を図るために原料の配合量を減らす、あるいは価格上昇を抑えるために安価な原料へ変更するといった、商品設計の見直しが必要となる場面もある。
本稿では、そうした商品設計の見直し時における選択肢の一つとして、香料を活用したアプローチを取り上げ、その開発に用いられている技術とともに紹介する。
飲食シーンの段階に着目した分析技術
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