執筆者
石川県立大学 生物資源環境学部 食品科学科 食品微生物学研究室 准教授 小栁 喬
発酵食品は大変古くから存在し、人類の歴史の中で数多くの品について記述が残されている。例えば酒は世界中で消費されてきた飲料であるため製造の記録や痕跡も多く残され、少なくとも8000年~9000年くらいは人類に親しまれてきたことが知られる。人類にとって伝統発酵食品について知るということはこのような連綿と伝えられてきた醸造発酵技術の「過去」を紐解くということであり、looking back的な意味合いが強いということになろう。
しかしながら、このような長い歴史を刻んでいるにもかかわらず、伝統発酵技術の中に秘められた科学的な謎は未だ全て解き明かされてはいない。伝統発酵食品は微生物の力によって出来上がる食品であることは論をまたないが、発酵中の微生物挙動については細かい点は解っていないことも多く、例えば発酵工程において増殖する微生物それぞれがどこに由来するかといった単純な問いについても、実は一貫した答えは得られていない。原料を仕込み決まった条件で置いておくと、いつしか微生物群がある程度の選択性をもって増殖し、発酵作用を発揮してくれる。
すなわち、伝統発酵食品というのは自然に形成される複雑な微生物コンソーシアムの存在を前提としており、その中からいかに食品造りに役に立つ微生物を選択的に増殖させ優勢化させるかという、微生物制御技術の洗練化に対する不断の努力の結晶として、現在の姿を見ているのである。
スターター(種菌)を積極的に利用する近代的発酵食品製造技術
…
🔒この記事は雑誌に収録されています。
続きは『食品と開発』2026年1月号にてご購読いただけます。














