執筆者
㈱シー・アクト 生物活性物質研究所 石川 英明
はじめに
日本は世界でも類を見ない速度で高齢化が進んでおり、2023年時点で総人口に占める65歳以上の割合は約29%に達し、いわゆる「超高齢化社会」が現実のものとなっている。こうした社会構造の変化に伴い、単に寿命を延ばすだけでなく、身体的・精神的に自立した生活を維持できる「健康寿命」の延伸が国家的な喫緊の課題として位置づけられている。
健康寿命の延伸を阻む主要因として加齢関連疾患が挙げられる。加齢関連疾患は、身体の老化(機能低下・慢性炎症)に伴い発症・進行する疾患群で、認知症、心血管疾患、がん、骨粗鬆症、糖尿病などが代表例として挙げられる。これらの疾患に対しては、薬物療法のみならず、食品由来の機能性成分を活用した予防的アプローチへの関心が近年急速に高まっている。とりわけ、脂質栄養学の分野では、従来のオメガ3系多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)に加え、炭素数が奇数である「奇数脂肪酸」の生理活性に注目が集まりつつある。
奇数脂肪酸は、ペンタデカン酸(C15:0)やヘプタデカン酸(C17:0)に代表される脂肪酸であり、生体内や食品中においては通常微量にしか存在していない。それ故に脂質の生体への影響は、豊富に存在する偶数脂肪酸の生理作用のみがクローズアップされ、奇数脂肪酸に関しては軽視されてきた。しかし近年の疫学研究や基礎研究により、微量である奇数脂肪酸が独自のシグナル伝達経路を介して、代謝改善・抗炎症・抗老化などの多面的な生理作用を発揮することが明らかとなってきた。
我々は微細藻類の一種であるオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium sp.)の生産株の選別、培養条件の最適化を通して奇数脂肪酸を豊富に含む油脂(以下、オーラン油)の大量生産に成功した。本稿では、オーラン油に含まれる奇数脂肪酸の化学的・生化学的特性を概説したうえで耐糖能改善作用、内服美容への応用可能性について我々の取得したデータを示し、健康寿命の延伸に向けた新たなアンチエイジング素材としての可能性を論じる。
1.微細藻類オーランチオキトリウムが産生する奇数脂肪酸
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