DHA・EPA協議会、(一財)日本水産油脂協会が主催する第27回公開講演会が、10月28日(水)に都内で開催された。「DHAがひらく未来の健康-基礎研究から母子保健・社会実装―」と題した講演会では、3名の講師による講演が行われた。
■食事性DHAの脳内代謝運命と局在が脳機能に及ぼす影響の解明
東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門 食品保全化学研究室 助教 田中誠也氏

食事として摂取したDHAが、実際に脳内でどのように利用されているのか、食事性DHAの脳内代謝についての研究を紹介。食事性DHAは、その0.2%が脳に運ばれ、脳内にある既存のDHAと少しずつ入れ替えが起こっているという。
安定同位体指標DHA(標識DHA)を使って体内にあるDHAと区別できるようにし、標識DHAをマウスに経口投与して体内動態を調査した。ホスファチジルコリン(PC)の脂肪酸の通常結合(PC(16:0/22:6):sn-1位にパルミチン酸(16:0)、sn-2位にDHA(22:6))とは異なる、結合位置が逆転したPC(22:6/16:0)は、脳に特徴的に存在する。脳内分布を可視化する技術を確立し、脳のどの部位に存在するかを調べたところ、PC(22:6/16:0)は聴覚情報処理に関与する下丘や脳幹に多く存在し、全体的に広く分布しているPC(16:0/22:6)とは異なる分布であることが判明した。経口投与した指標DHAも同様に下丘に顕著に蓄積していた。DHAの総量は維持されていても、それを含んだリン脂質の分子種構成は変化しているということが明らかにされた。
■妊娠期のDHA摂取と低出生体重児予防-研究知見から母子保健への社会実装を考える―
山形大学大学院 医学系研究科 看護学専攻 臨床看護学講座 教授 藤田愛氏

周産期の課題と栄養に関する研究を紹介しながら、妊娠前から産後にかけてDHA・EPA摂取を支える取り組みの社会実装について言及した。日本の低出生体重児の割合は9.8%(2024年)と高い水準にあり、その背景として女性のやせや低栄養が指摘されている。妊娠中のエネルギー、葉酸・鉄、n-3系脂肪酸の摂取量不足が報告されており、観察研究ではDHA・EPA摂取量が低い群ほど低出生体重児の割合が高い傾向にあることを報告している。
妊婦に対するDHA・EPAの望ましい摂取量を示す必要があり、妊婦の健康を支えるパートナーとして助産師の活用を提案する。助産師がDHAの働きや摂取方法に関して妊婦に分かりやすく伝えることが重要であり、さらに妊婦が無理なくDHA・EPAを摂取できる食品や仕組み作りの必要性を説いた。
■ヒトiPS細胞を用いた高度不飽和脂肪酸の神経機能への影響解析
サントリーグローバルイノベーションセンター(株)研究部 研究員 森田賢氏

DHA・ARA(アラキドン酸)などの高度不飽和脂肪酸(PUFA)は脳の健康を支える栄養として注目されている。ヒトiPS細胞由来の神経細胞を用いて、その作用機序を解明した研究を紹介した。DHAとARAは脳のリン脂質を構成する主要なPUFAで、脂質膜の性質や神経伝達調節にも関わっている。DHA摂取量が多いほど、認知症のリスクが下がり、ARA・DHA摂取量が多いほど脳体積の減少傾向が小さいことが知られている。
ヒトiPS細胞から大脳皮質神経細胞の脂質膜の脂肪酸組成を変化させて2つのモデルで解析した。PUFAが不足した培地では、DHA・ARAの添加により神経細胞のリン脂質を構成するPUFAは増加し、膜流動性は上昇し、アミロイドβ産生が減少した。PUFAが十分に含まれる条件で神経細胞とアストロサイトを共培養してDHA・ARAを添加したところ、神経突起が長く複雑になり、大きなシナプスを形成した。脳の健康にとっては、脂質膜に存在するPUFAの量に加えて、存在するPUFAの種類も重要だと考えられた。
DHA・EPA協議会のホームページはこちら⇒ https://www.dhaepa.org/
なお、DHA・EPA研究に関する3名の講演者の執筆が、食品と開発2月号(2027年2月1日発刊)に掲載予定となっている。
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