執筆者
東京大学 高齢社会総合研究機構・未来ビジョン研究センター 教授 飯島 勝矢
はじめに ~健康長寿実現を目指すヘルスケア戦略の今までとこれから~
人生100年時代ともいわれる世の中になり、われわれはより長い人生を歩めるようになった。老いは避けられないといわれているなかで、いつまでも自立生活を維持するために、改めて国民に何を伝えるべきなのか。少子高齢化が進む中で、健康長寿を実現するための健康増進~虚弱予防の視点、そして国民が最期まで生き抜き住み慣れた場所でいつまでも過ごすことが出来る重層的なケアの視点(医療介護連携)、この2つは重要であると同時に、シームレスでつながる一連のものでもある。
わが国の「健康長寿実現を目指すヘルスケア戦略」を振り返ると、特に生活習慣病対策(メタボ予防含む)を軸に健康施策を打ち立ててきた今までの流れに対して、超高齢社会の波を受けて、フレイル傾向や要介護状態にある高齢者に向けて、どのような包括的な指導(食事も含めた栄養管理や身体活動も含め)をすべきなのか。我々専門職からのどのような視点の指導助言に対して国民は意識や行動を変容してもらえるのか。
図1に「メタボ予防からフレイル予防へ考え方の移行」を示した。年齢別エネルギー摂取に関する考え方の「ギアチェンジ」のメッセージを打ち出したものであるが、まだこの考え方が全ての専門職に浸透していないからこそ、当然ながら一般住民にまでも届いていない。結果的には、高齢期(特に後期高齢者)の中肉中背の体格であっても、「まだ痩せなければならない、もう少し体重を落としたい」と願っている方々が少なくない。これはメタボ予防を軸としてヘルスケア戦略を展開してきたのだが、その診断基準および指導内容をそのまま後期高齢者にまで応用して指導してきた長い経緯がある。
ヒトは自然の老いのなかで「健康⇒フレイル(虚弱)⇒要介護⇒終末期⇒看取り」という一連の流れを辿っていく。高齢期(特に後期高齢者も含めて)において、フレイルやサルコペニア(筋肉減弱:後述)も視野に入れてもらいながら、どのように立体的に解釈し、自分自身の立ち位置とやるべきことを理解してもらうのか。
そのフレイルの最大なる要因は、栄養の偏りや低栄養を基盤として進行するサルコペニア(筋肉減弱)であり、その原点にあるのは「いつまでもしっかりと食べられる、すなわち口腔機能の重要性」である。このことを改めて国民に意識変容を促す必要がある。そして、そこを上手く推進していくためには、われわれ全ての専門職がこれらの課題認識を、なかでも「口腔機能の重要性、最期まで自分のお口で食べ続けることの意義」をしっかりと各自で認識し直すから始まるのであろう。
1.高齢期の『食力』とは
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