『食品と開発』誌面から

機器分析を用いた苦味の官能特性評価手法の開発【食品と開発 4月号特集3】🔒

執筆者

食品と開発のアバター

三栄源エフ・エフ・アイ㈱フレーバー&テイストユニット 山木 伽穂


はじめに

苦味はよく知られたように、基本五味に数えられる味覚特性のひとつである。基本五味にはそれぞれ明確に区別される受容体が存在し、苦味の場合は25の受容体によって知覚されている。苦味は元来、毒性物質に対する防御システムとして備わる感覚であり、複数の受容体により幅広い成分を検知する。苦味物質の一部には、複数の受容体に横断的に結合することで、味を一層強く知覚するものもある。

一方、これらの受容体は変異率が高いことでも知られている。多様な毒性物質に柔軟に対応するための性質である一方、受容体の変異箇所が人によって異なることで、同じ物質に対しての知覚に差が生じうる。つまり、苦味は遺伝子レベルで個人差がある感覚であるといえ、この性質は官能評価を実施する場面においては特に重要な課題となりうる。

通常、パネル同士の感覚の違いは繰り返しの評価訓練により統制をおこなうが、受容体の欠損が原因である場合、この差を埋めることは難しい。また同じく、苦味について官能評価を実施する際には、特有の持続性も課題となりうる。継続する感覚は、次の試料の評価へ影響するためである。

苦味の持続性の原因については、多様な説が唱えられており、苦味受容体の口腔内における分布が、舌根や咽頭などの唾液による洗浄作用を受けにくい場所に集中しているためとする説や、苦味物質は脂溶性の物質が多く、受容体に吸着しやすいためとする説などがある。またさらに、苦味物質は受容体への結合に加え、味覚細胞内に侵入しシグナル伝達物質を直接活性化し苦味を知覚させる第二の経路の存在が示唆されており、これらの知覚の時間差が特有の遅効性に寄与しているという説もある。

このように、持続する苦味には様々な原因があるため、意図的に断ち切ることは容易ではなく、先述の個人差と合わせても、苦味のヒトによる官能評価は非常に困難なものであるといえる。そこで我々は、受容体の差異などヒトを用いることにより起こりうる特有の課題を解決すべく、機器分析によりヒトの感覚を予測する形で苦味の官能的特性を評価する方法を検討した。

味評価によく用いられる機器のひとつに、味覚センサーがある。味覚センサーは、舌を模した脂質膜への応答値をもとに、計算によってヒトの感覚を数値化する。味覚センサーを用いた苦味の識別は、多田らにより2015年に検討されており、6種類の脂質膜センサーにより、34種の苦味料等がおよそ5つのグループに大別された。我々はさらに細かな苦みの違いをとらえることを目指し、より多くの情報が得られる当社独自の味覚センサー分析方法を開発したので、本稿にて紹介する。

🔒この記事は雑誌に収録されています。

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