執筆者
(一社)食品需給研究センター 前常務理事 関根 隆夫
失われた30年はコスト削減・合理化の歴史
食品製造業の企業数は約45,000社あり、依然として、中小零細企業が多く、大手中堅との二極化が顕著である。バブル崩壊後の“失われた30年”は、価格破壊からはじまった。長期のデフレ下において、原価コスト削減をめざし、サプライチェーン全体において合理化が展開されてきた。今、需要を創造するためにはバリューチェーン再構築による付加価値の提案力が問われている。
まずは食品の供給量の推移をみていく。農林水産省の「食料需給表」によると、「国民1人当たりの供給熱量」は1996 年の2,670kcalをピークに大きく減少し、2022 年には2,203kcalとなっている。減少の要因は大きく2つある。1つは供給面でロスが減少したということだ。コンビニエンスストアや大手チェーンストアの多くがサプライチェーン・マネジメントのためのシステムに積極的に投資を行い導入したことで、原料調達、製造、在庫・出荷、販売をデジタル化し、最適化が進んだ。需要の予測に基づき、遡って原料調達から販売までの数量を管理することで、様々なロスが減少した。2つ目は、消費面での減少である。買いだめやギフトの減少、また、単身世帯の増加や家族員数の減少による少量パック化、個食化など、家庭でのロスが減少した。また、ダイエット志向や健康志向の高まりも、消費量の減少の一因となっている。
“失われた30 年”は長期デフレ下での激しい価格競争の時代であった。GDPデフレーターの推移をみると、1995年から2014年ごろまでマイナスが継続をしている。牛丼やハンバーガーの低価格競争は、当時の“価格破壊”現象の象徴となった。さらに、リーマンショックのように景気が悪化すると、低価格商品のボリュームが大きくなり、付加価値をつけた高価格商品が売れない。食品製造業は、激しい価格競争の中で、コスト削減・合理化を進めるべく、経営合理化等を目指した企業の再編統合、M&A、製造工場の集約化・系列化など、様々な取り組みを行った。大手小売業のPBについても、価格競争の中でNBの脅威になるほど市場が拡大した。それと同時に食品製造業ではHACCPやISO、FFSCなど食品の安全マネージメントについても強化された。
長期デフレを脱却しつつあった2020年ごろから今度は物価の上昇局面に転じる。2020年からの4年間で輸入物価は、急速な円安や農林水産物の需給ひっ迫などを背景に65%、企業物価(飲食料品)は19%、消費者物価( 食料)は18% 高騰した。これらは近年にない上昇幅だ。企業物価の上昇率は飲食料品全体で19%だが、品目によって上昇幅が大きく異なっている。ショートニング(56. 3%)、植物油脂(44.0%)、砂糖(40.6%)などは上昇率が高く、対してサプリメント(2.4%)、漬物(6.3%)、ノンアルコール飲料(7.0%)などは上昇率が低かった。
食品製造業の構造
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