執筆者
帝京平成大学健康医療スポーツ学部医療スポーツ学科 動物医療コース 教授 中江 大
はじめに
動物はなんらかの形で人とかかわっており、さらに、動物も人もひとつの生存環境の中で共存して生息している。したがって、動物・人・環境の三者はそれぞれ独立しているものでなく、それらは相互に密接に関係している。それ故、三者は不可分であり、それらのどれかに影響する因子は他の二者に一定の影響を与える。健康という側面においても同様であると考えられることから、健康の維持・増進を図る上では三者を包括的かつ相互依存的に捉え実践することが望まれるということが「One Health」という概念である。
なお、この概念は当初人獣共通感染症に対して提唱されたもので、その後、感染症以外にも敷衍されて普遍的なこととして定着した。すなわち、動物・人・環境のいずれかの健康を維持・増進することは他の二者の健康も維持・増進する可能性があり、また、いずれかの健康を阻害することは他の二者の健康を阻害するおそれがあるのである。
動物には伴侶動物・産業動物・展示動物・実験動物・野生動物など様々なカテゴリーがあるが、本稿では主として伴侶動物について述べさせていただき、単に「動物」と記載する場合は伴侶動物を指すものとさせていただく。
近年、日本を含む多くの先進国においては動物を「家族の一員」と捉える傾向があり、人は家族である動物との間に心理的のみならず身体的な関係性を構築し、両者が互いに影響しあうようになっている。動物の健康問題は、飼い主にとってきわめて重要な意味を持つ問題である。人の高齢化が深刻化していることは周知の事実だが、動物にとっても同様の状況がもたらされており、高齢化に伴う健康問題は動物にとっても飼い主たる人にとっても死活的に重要である。したがって、動物と人の健康の維持・増進、また、QOLの向上は双方にとって喫緊の課題であり、そのためには「予防医学」が重要である。
「予防医学」は古くから「病気にならないようにする」「病気になる前に見つける」→ 一次予防、「病気を早く見つけて早く治す」→ 二次予防、「機能回復により社会復帰を促す」→三次予防から成るとされるが、近年ではOne Health概念の下で「自然に健康になれる環境づくり」として厚生労働省が推進するゼロ次予防や、医療そのものによる害(医原病、過剰診断、過剰治療)を防ぐことを目的とする四次予防が注目されている。こうした予防戦略は、One Health 概念と親和性が高い。予防医学には様々な角度・側面があるが、食品(成分)や栄養制御はそのもっとも有力な方策のひとつである。本稿では、動物と人の予防医学の推進を目的とする活動について、食品に関連する分野を中心に述べさせていただく。
1.動物と人の予防医学
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