執筆者
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理 古城 達也
はじめに
米国の関税措置や中国のALPS処理水の海洋放出にかかる輸入規制など世界情勢の不透明化、通商環境の不確実性が増している中で、輸出構造を強靭化する重要性が高まっている。政府目標として2030年度までに農林水産物・食品の輸出額5兆円を掲げており、その目標を達成するべく、「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」 が改訂された。
こうした状況の中で、加工食品を中心とした輸出の現状を解説するとともに、政府目標に向けてさらなる輸出拡大のために、ジェトロの輸出支援事業を中心に、事業者にとってすぐに使えるジェトロのお役立ち情報を紹介したい。
■2024年の農林水産物・食品の輸出額、初めて1 兆5,000億円超え
2024年の輸出実績をみると、前年比3.6%増の1兆5,071 億円となり、初めて1兆5,000億円を超えて、過去最高額を更新した。
輸出の内訳を見ると、全体の65.1%を占める農産物は前年比8.4%増の9,816億円、林産物は7.5%増の667億円と前年から増加した。対して、全体の約2割を占める水産物は前年比7.5%減の3,609億円と2020年以来4年ぶりに減少した。主要な輸出先である中国や香港などが水産物を対象としたALPS処理水関連の輸入規制を強化したことが響いた。そのうち、2024年の加工食品の輸出額は前年比4.8% 増の5,340 億円で、過去最大であった。2020年の3,740億円から比較すると1.4倍以上の輸出増加が見られた。
■21年ぶりに米国が輸出先トップ
輸出額上位5カ国・地域は、米国、香港、台湾、中国、韓国の順であった。2021年以降、最大の輸出先だった中国は4位となり、21年ぶりに米国が首位となった。輸出先首位の米国向け輸出は、17.8%増の2,429 億円だった。アルコール飲料(11.6%増)は長期化した在庫調整の落ち着きや外食需要の高まりにより、前年の不調から増加に転じた。ソース混合調味料(14.2%増)の輸出も好調だった。
第2位の香港向け輸出は、6.6%減の2,210億円となった。真珠(12.6%減)、ホタテ貝(調整、17.5%減)が減少した。他方、緑茶飲料などの清涼飲料水(20.1%増)、菓子(10.4%増)は好調だった。特に菓子では日本のグミやキャンディーの認知度向上が主因である。
第3 位の台湾向け輸出は、11.1%増の1,703 億円となった。りんご(41.0%増)、ぶどう(生鮮、24.8%増)、ホタテ貝(生鮮など、20.8%増)といった品目を中心に増加した。
■ソース混合調味料やしょうゆが好調
輸出額上位5 品目は、アルコール飲料(1,337億円、0.5%減)、ホタテ貝(生鮮など、695 億円、0.9%増)、牛肉(636億円、11.6%増)、ソース混合調味料(630 億円、15.9%増)、清涼飲料水(574億円、7.0%増)だった。そのほか、緑茶(24.6%増)、りんご(生鮮、20.5%増)や醤油(21.3%増)の増加も目立った。
加工食品での主な品目の動向に関しては以下のとおりである。アルコール飲料では、日本酒が5.8%増の435億円と好調だった。半面、ウイスキーは、輸出額構成比が15.2%と大きい中国向けが景気低迷などを要因に、49.7%減と大幅に減少したことにより、全体の輸出額は12.8%減の463億円と全体を押し下げた。
ソース混合調味料は、インバウンドの増加に伴う日本食への関心の高まりを背景に、日本食レストランなどの外食需要が増加したことが影響した。
清涼飲料水は、米国において日本独特のラムネ飲料に対する人気が高まっているほか、香港などで健康志向から緑茶飲料の需要が増加したことが輸出拡大の背景とみられる。
菓子(米菓を除く)は、11.9%増の344億円であった。米国や香港などにおいて一見で日本産とわかるデザインなどを背景としたグミやソフトキャンディーの認知度が向上した。
しょうゆは、21.3%増の122億円であった。EUやタイなどにおいて、日本食レストランの増加、インバウンドによる日本食への関心の高まり等を背景に、外食需要が増加した。
上位20位には入っていないものの、みそは38.2%増の687億円であった。米国などにおいて、日本食レストランの増加、インバウンドによる日本食への関心の高まりを背景に、外食需要が増加した。
1.ジェトロの輸出拡大に向けた輸出支援事業
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