『食品と開発』誌面から

麹グリコシルセラミドの機能性【食品と開発 1月号特集4】🔒

執筆者

食品と開発のアバター

佐賀大学農学部 教授 北垣 浩志


はじめに

日本の伝統発酵食品は、穀物の米を基盤とし、それにさまざまな伝統発酵微生物を作用させて作るものである。発酵微生物には穀物のでんぷんの糖化のための黄麹菌Aspergillusoryzae,、エタノール発酵のための出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、もろみを酸性にするための乳酸菌Lactobacillus sakeiなどがある。一般的に、真菌はアスペルギルス、カンジダ、クリプトコッカス、ムコール属など、人間に多くの感染性疾患を引き起こすものである。しかし、いくつかの真菌は先史時代から世界中で薬として利用されてきた。真菌は真核微生物であり、複雑な生合成経路と多様な形態を有する。彼らは独自の生合成経路を持ち、哺乳類、植物、原核細菌には含まれない独特な物質を産生する。

日本では、平安時代からアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)で作る麹が発酵食品の製造に利用されてきた。この1300年にわたる過程において、麹の専門技術者によって非病原性株が遺伝的に選抜されてきた。実際、味噌は701年に制定された大宝律令に記載されており、甘酒は731~733年に編纂された『万葉集』に記載されている。また、1444年には麹技術者と室町幕府の間で「文安の麹騒動」が記録されている。これらの文献から、専門技術者が株を選抜・維持してきたことが明らかであり、現在麹製造に使用されるA. oryzae株はその食経験から非病原性と考えられている。したがって、麹はFDAにより一般に安全(GRAS)と見なされ、味噌、醤油、酒、甘酒、酢、黒酢など、日本の発酵食品や飲料のほとんどに使用されている。

発酵食品は健康維持に重要なことが太古から記載されてきたが、18-19世紀の感染症の蔓延や20世紀前半に先進国で多く起きた食中毒事故への懸念から、工業製品としてはそれほど開発されないできた。しかし20世紀後半以降の生活習慣病の急増から、こうした発酵食品が生活習慣病の予防になることへの期待から発酵食品の健康機能性の研究が行われるようになってきた。発酵食品の健康機能性の研究として多かったのは1907年にメチニコフが乳酸菌の健康効果を提唱したこともあり、主に乳酸菌の免疫応答に関するものである。

1990 年代に小腸に乳酸菌に応答する自然免疫の組織や細胞、受容体が豊富にあることが解明されて以来、乳酸菌の表面の構造が発酵食品の健康機能性として訴求されてきた。しかし日本の発酵食品はもちろん乳酸菌は含むが、それ以外に日本独自の真菌である麹菌を含んでいる。麹菌の健康機能性に関する知見は、日本にしかない素材であることも影響し世界的にも少ないと言える。

そこで麹菌の健康機能性を明らかにするために、麹菌特有の物質について調べることにした。その結果、麹菌には他の食品素材には含まれていない独自の構造のセラミド類が含まれていることがわかったことから、その健康機能性について明らかにした知見を記載したい。

🔒この記事は雑誌に収録されています。

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