執筆者
(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 真野 潤一
微生物や植物の細胞は、「窒素同化」と呼ばれる機能をもち、自然環境中にあるアンモニアや硝酸などの無機窒素化合物からタンパク質を合成することができる。一方、ヒトを含めた動物は、進化の過程で「窒素同化」の能力を失ったため、タンパク質を食物から摂取する必要がある。農耕の発明により、人類はタンパク質を安定的に入手できるようになり 、人口を増やし、文明を築いてきた。20世紀に入り、化学合成による窒素肥料が使われ始め、「緑の革命」と呼ばれる穀物の飛躍的な増産が実現し、さらに多くの人口を支えることが可能となった。また、先進国では、穀物を家畜飼料として利用することで、タンパク質を豊富に含む畜産物が大量に生産可能になり、20世紀後半には健康増進・寿命延伸が達成された。このようにタンパク質生産のあり方は、人類の発展に大きな影響を及ぼしてきた。
一方、現代では、世界人口の急速な増加や新興国における著しい経済成長によって、畜産物の需要が劇的に増加することが予想されている。畜産飼料を支えているのは穀物であり、穀物の需要増加も見込まれる。しかし、穀物は既に広大な土地を利用して生産されており、短期間で大幅に増産することは容易ではない。このため、タンパク質の供給が世界的に不足する 「タンパク質危機(global protein crisis)」の発生が懸念されている。こうした背景から、タンパク質供給力の維持・強化に向けて、既存の食料システムと調和した低コストで高効率な新しいタンパク質生産プロセスが求められている。
近年、食用昆虫や培養肉が新しいタンパク質源として注目されている。しかし、これらは他の生物が合成したタンパク質を利用するプロセスであり、それ自体がタンパク質の供給量を増やすことはできない。一方、微生物は窒素同化によって無機窒素化合物からタンパク質を合成し、供給を増やすことができるため、今後、微生物がタンパク質の供給源として重要な役割を果たすことが期待される。
微生物を用いたタンパク質生産には、酵母やバクテリアを利用する「シングルセルプロテイン」や、カビやキノコを利用する「マイコプロテイン」などがあり、既に実用化されているものも存在する。多くの場合、微生物はバイオリアクターと呼ばれる装置の中で液体培養されるが、バイオリアクターの導入には高額な設備投資が必要である。さらに、好気性微生物の培養には、空気を送り込み攪拌するためのエネルギーも必要となる。より低コストで環境負荷の少ないタンパク質生産を実現するためには、バイオリアクターや通気攪拌の動力を必要としない、新しい発酵プロセスの開発が期待される。
麹菌を利用したタンパク質生産
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