執筆者
㈱シクロケムバイオ 長谷川 莉沙、近本 啓太、石田 善行、寺尾 啓二
はじめに
ピペリンはコショウ科コショウ属(Pipernigrum)に属する植物である黒胡椒やヒハツに多く含まれている辛味成分である。ピペリンはアルカロイドであり、血圧低下作用、末梢体温を維持する効果、脚のむくみを軽減する効果、酸化ストレスを抑制する効果など様々な健康効果を示すことが知られている。実際に機能性表示食品関与成分として様々なサプリメントで利用されている。
機能性としては、「冷えにより低下した血流を整え、末梢(手足)の皮膚表面温度の低下を軽減」、「脚のむくみが気になる健常な女性の夕方の脚のむくみ(病的ではない一過性のむくみ)を軽減する機能」、「血圧低下作用により血圧が高めの方の血圧を改善し、正常な血圧を維持する機能」、「加齢とともに低下する血管のしなやかさ(血管を締め付けた後の血管の拡張度)の維持に役立つ機能」があり、2026年6月時点、189件が登録されている。
またピペリンは、クルクミンなどの他の食品成分の吸収性の増加や血中滞在時間の延長といったバイオアベイラビリティ(生体利用能)を高めるというユニークな効果を有している。実際にShobaらは、ピペリンとクルクミンを併用することでクルクミンの生体利用能を約30倍に増加できることを報告している。ピペリンが他の成分の生体利用能を促進させるメカニズムとして①薬物の排出にかかわるP糖タンパク質(P-gp)の阻害、②生体内で薬物代謝を促す、グルクロン酸抱合にかかわる酵素の活性抑制による薬物代謝阻害作用が知られている。このようにピペリンは様々な健康効果を示す有用な素材であるが、ピペリンは水溶性が12.8 μg/mLと低いため、体内への吸収性が不十分であるということが課題となっている。
そこで我々は、ピペリンの水溶性および吸収性を改善し、ピペリンの持つ他の成分の生体利用能を促進する効果を高めるために、シクロデキストリン(CD)を用いてこれらの課題を解決したピペリン-α-CD包接体を開発した。
CDはD-グルコースがα-1,4グルコシド結合で環状に連なった構造をもつ環状オリゴ糖である。食品として利用されているCDはα-CD、β-CD、γ-CDであり、それぞれD-グルコースが6、7、8 個で構成されている。CDは底のないバケツのような形をしており、空洞の内側が親油性、外側が親水性を示すため、その環状構造内部に脂溶性物質(ゲスト分子)を取り込む「包接」作用を有することが知られている。この包接作用には、熱や光に不安定な物質の安定性の向上、脂溶性物質の水溶性・分散性向上、揮発性の制御、臭いや苦味のマスキング、生体への吸収性の向上などの作用があり、様々な食品・日用品に利用されている。CD包接による溶解性や安定性、吸収性の促進作用については同雑誌2025年11月号掲載の特集記事においても記載しているので参考されたい。
本稿では、ピペリン-α-CD包接体の開発及びその機能性を紹介する。
1) ピペリン-CD包接体の開発と水溶性の検討
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続きは『食品と開発』2026年8月号にてご購読いただけます。














