執筆者
神戸大学大学院 准教授 山下 陽子
はじめに
腸は第二の脳と称されるほど、生体にとって重要な組織であり、腸内でのイベントの一部は、脳からの指令とは独立して全身の生理機能の調節に関与することも判っている。腸では食品の消化吸収を担うだけでなく、免疫機能、物質の認識や輸送、腸内細菌叢との共生関係など、さまざまな機能が集約されている。また、腸はホルモンを分泌して、摂取された栄養素に反応してニューロン信号を生成し、代謝調節も担っている。
特に、腸内のL細胞から分泌されるインクレチンホルモンのグルカゴン様ペプチド-1[glucagon like peptide-1(GLP-1)]は、主にその受容体を介して多面的生理機能を誘発することにより、グルコース恒常性をはじめ健康の維持増進に極めて重要な役割を果たしている。GLP-1分泌機構の概要を図1に示す。したがって、食品の機能性に関しても、GLP-1シグナル伝達系を標的とすることは、糖尿病や肥満などの生活習慣病を予防・治療するための有力な治療戦略となりうると期待されている。
植物の二次代謝産物であるポリフェノールは、潜在的な抗糖尿病効果を含む多くの生理機能を発揮することで注目を集めている。ポリフェノール化合物が抗糖尿病作用を発揮する主な標的と場所はまだ不明な点が多いが、これらの化合物にさらされる最初の器官は消化管である。実際に近年では、ポリフェノールがGLP-1分泌を刺激することが示されてきており、これらの天然化合物がGLP-1によって少なくとも部分的に媒介されて代謝作用を発揮する可能性があることが示唆されている。
本稿では、代謝恒常性に関連するGLP-1分泌におけるポリフェノールの役割に関する最近の知見を紹介する。特に、私たちが見出した、難吸収性のポリフェノールの一つであるプロシアニジンの生体調節機能に関する研究成果に関して、GLP-1分泌を介した生理作用について紹介させていただく。
1.プロシアニジンのGLP-1
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