『食品と開発』誌面から

細胞培養食品の安全性に係る諸外国の規制動向について【食品と開発 6月号特集II-2】🔒

執筆者

食品と開発のアバター

国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 五十嵐 智女、西村 拓也、北嶋 聡


はじめに:細胞培養食品の上市の現況と安全性評価の必要性

“いわゆる培養肉”は、食肉の代替として作られる「食肉代替食品」の一種である。一般的に、細胞培養技術を用いて作られる食品を指すものと考えられるが、この定義については議論が続いている。規制上の正式名称も定まっていないが、“肉”と呼んでよいかどうか議論があるため、ここでは「細胞培養食品」と呼称する。この細胞の種類としては、生体組織より採取し培養する初代培養細胞だけではなく、無限に増殖が可能な不死化した株化細胞も含まれ、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)なども含まれる。

近年、細胞培養食品の研究開発が精力的に進められており、海外ではすでに上市が始まっている。2013年にオランダのマーク・ポスト博士が世界で初めて牛の骨格筋幹細胞を培養することによりハンバーガーを作製して注目を集めた。その後、世界各地で商品化に向けた研究開発が進展し、2020年のシンガポール政府による培養チキンナゲットの世界初承認を皮切りに、2023年に米国でも鶏由来の製品が販売可能となった。

家禽由来製品の上市が先行していたが、2024年1月にイスラエルで世界発となる牛由来の培養ステーキが承認された。同2024年にはシンガポールと香港でウズラ由来の製品が承認され、オーストラリア/ニュージーランドでも正式な承認が目前である。2025年3月に、豚由来の培養脂肪が、米国FDAの市販前コンサルテーションを終了し、豚由来のものとしては世界で初めて販売が可能となる見通しである。

2025年3月の時点で、細胞培養食品の販売が可能となった国は、シンガポール、米国、イスラエル及び香港である。食品の安全性確保において、食品添加物、動物医薬品、農薬等の食品中に添加される又は残留しうる食経験のない化学物質については、毒性試験による安全性評価が行われているが、“食品そのもの”については、摂取量が多いこともあり、従来の食肉を含め、その多くは、長い食経験を通じて安全性が担保されてきた。

日本では、この食経験に関する明確な定義がないが、濃縮、抽出、錠剤化やカプセル化等、通常と著しく異なる方法により摂取される場合は、過剰摂取の可能性があるため、原材料や成分だけでなく製造加工や摂取方法も食経験の概念に含めるべきものと考える。他方、従来の食肉とは異なり、体外で細胞を大量増殖で生産された細胞培養食品には、食経験がないと考えられるが、現時点では、細胞培養食品のハザードが不明な点が多く、国際的に統一された安全性評価手法もないことから、潜在的なハザード因子の検討や新たな安全性確保の仕組みづくりの検討が必要なタイミングを迎えているものと考える。

本稿では、新たな進展を見せている細胞培養食品(いわゆる培養肉)の安全性に係る諸外国の規制における動向について概説する。

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食品と開発2025年6月号

【2025年6月号】特集 Ⅰ/原料の供給問題に備えた代替ソリューション 特集 Ⅱ/細胞性食品の規制と今後

『食品と開発』誌面から

細胞性食品(いわゆる「培養肉」)の「実装」をとりまく現状と課題【食品と開発 6月号特集II-1】🔒

2025年6月 行政ニュースリスト(6月30日更新)

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