執筆者
SOCSマネジメントシステムズ㈱ 代表取締役 田中 晃
1.食品事故を「社会的」側面から考える
食中毒などの食品事故が発生したとき、企業や社会に対してどのような事態が発生し、どのような影響があるのか。かつて大きな社会問題となった「マクドナルドの異物混入事件」や「カイワレ大根による食中毒」、ユッケの販売規制のきっかけとなった「焼肉酒家えびすの集団食中毒事件」などの例を見ても、食中毒や異物混入など「食」の安全に関わる問題は、当事者だけの問題ではなく、社会的にも経済的負担(社会的費用)が発生することが分かる。言い方を変えると、食品事故は、単なる病気や事故とは違った「社会的性格」があると考える必要がある。一旦事故が発生すると、食の安全に対する不安が社会に広がり、当該事業者だけでなく関連業界や行政機関などの多くが巻き込まれ、これにマスコミ報道や、SNSなどでの根拠不明の“噂”の拡散などが加わることで、社会的混乱をさらに複雑化させることになる。
このように、食品事故の影響は直接の当事者(被害者、食品の製造・販売者など)だけでなく、想像以上に広範囲に及ぶ可能性がある。したがって、食品事故は「狭義」と「広義」の2つの視点で検討し、これらの両方を統合する対策が必要である。例えば食中毒の場合、食中毒事故を「狭義」の視点で捉えると、微生物対策や製造工程管理、洗浄や殺菌などの「テクニカル」な課題が中心で、そのため、食品安全に関する議論の多くはこの分野が中心となってきた。これに対して、「広義」の視点で捉えると、事故当事者企業の組織文化や経営理念などの内的要因だけでなく、法的な規制、マスコミやSNSなどで発信される情報や「風評」など、事故を起点として発生する様々な衝撃や影響も重要な要素として対応すべきことが分かる。
このことは、食中毒事故のインパクトは、食中毒被害者への対応など一次的な影響よりも、多方面への損害賠償、生産体制の見直し・改善、事故により失われた企業に対する信頼や愛着(=ブランド価値の毀損)の回復など、二次的な影響の方が大きく、長期間にわたる可能性があることを教えている。不幸にして食品事故を起こしてしまった企業にどんなことが起きるのか。一口に事故からの「再建」と言っても、実際には、どれほど長期間に渡る大変な困難に向かい合うことになるのか。食品関連の事業に携わる方には、2000年2月にO157食中毒事故を起こしたことをきっかけに、倒産寸前(33店舗→3店舗)まで追い込まれたハンバーガーチェーン「ハングリータイガー(神奈川県横浜市)」を復活させるまでの記録を一度読まれることをお勧めしたい。
2.食品事故の経済的側面
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